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HRが終了し一時間目、二時間目と時間が過ぎとうとう昼食の時間になっても、やはり教室は静かなままだった。
授業をしにやって来た教師たちはまずその静けさに驚き、次に転校生を目にして固まった。そのままいつまでたっても動かず、生徒に声をかけられてやっと恐る恐るといった風に授業を始めたのも、一度や二度ではない。
現在も、窓際の一番後ろの席で外の景色を見つめるヴェルサスの様子を窺いながら、教室中の誰もが息を潜めていた。誰も席を立たず、かといって視線を彼の方に向けることもしない。万が一にでも目が合ったら、緊張のあまり動けなくなってしまうだろう。
近寄りがたい雰囲気に話しかけることもできず──例えそうでなくとも恐れ多くて話しかけられなかっただろうが──それでも少しでも同じ空間にいたいがために、彼らはじっと身動きひとつせず教室に留まっていた。
やがてヴェルサスが何かに気を取られたかのように立ち上がり、そのまま出て行ったあとで、ようやく教室には何とも言えないため息が広がったのだった。
ヴェルサスは裏庭を目指していた。地図は頭に入っているので足取りに迷いはない。
これからすることを誰かに見られないよう人目を避けながらやって来たため少々遠回りをしつつ、ようやく目的地に辿り着く。
裏庭と言ってもただ位置づけ的な面から便宜上そう呼ばれているだけで、立派な庭園だ。このように業者の手によってきちんと管理された庭が学園には至るところにある。そのため生徒たちの憩いの場所となっているが、幸いこの辺りはやや薄暗いからか不人気なようだ。
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