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念のため人の気配を探ってから、茂みをそっと掻き分ける。
するとそこには、今にも息絶えそうな一匹の猫が横たわっていた。恐らく老衰であろう、やがて猫は安らかな表情で眠るように息を引き取った。
その全てを、ヴェルサスはじっと見つめていた。見下ろす深紅の瞳には何の感情も浮かんでいない。
無慈悲に、無感情に。冷酷に審判を下す判定者のように、ただ黙って佇んでいた。
その時。突如として猫の死骸を淡い光が包み込んだ。そのまま球体になった光は、死骸を包む光とは細い一筋の光で繋がったまま猫の身体を離れ空中を浮遊している。
もしそこに他の人間がいたなら。その人間には、この光景は決して見えなかっただろう。
しかしヴェルサスは死骸を見つめたまま、ゆっくりと右手を差し出した。
ぶわりと闇が広がり、それが晴れた時。
──その手には、鈍く光る漆黒の鎌が出現していた。
死神、と呼ばれる存在がいる。
彼らは第三世界、通称人間界とは異なる次元におり、滅多にそこから出てくることはない。ただ魂の循環を見守り、輪廻の輪を管理するためだけに存在し続ける。
そこに善はなく、悪もなく。
ひたすらに、永遠とも言うべき時間を。
「……輪廻の輪に還れ」
鎌が振りかぶられ、細く伸びた光の糸を切断した。
死骸から切り離された魂は宙へと昇っていき、やがて光の粒を散らしながら消滅していった──。
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