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用事を終えたヴェルサスは、少し迷ったが食堂へ行くことにした。死神は食事を摂る必要はないが、昼休みにかなりの人間が集まるそこなら、目的の人物が見つかるかもしれない。
歩き出せば、手の中にあった鎌は自然に霧散した。
本来なら死神たちは滅多に魂を狩ることはしない。そのためには人間界に来なければならないし、わざわざ狩らずとも魂は自分から輪廻の輪の元へ集まってくる。
しかし稀に人間界に留まったままの魂がおり、そういうものが所謂“悪霊”などと呼ばれる存在になるのだ。それらは輪廻の輪に微弱ながら影響を及ぼすため、死神は死んだ魂を見かけたら狩ることを課されていて、そのための担当区域も大まかながら決められている。…最も、他の次元のことに全く興味がないので、数十年に一度思い出したら、という具合ではあるが。
ヴェルサスはこの辺りの担当ではない。が、偶々手が空いていたことと、過去何度か人間界に降りたことがあって少しは詳しいということから、今回の任務を命じられたのだ。
廊下を通り抜け、食堂の扉を開けたヴェルサスはやけにしんとしている周囲を気にすることもなく、人があまりいない隅のテーブルに座った。
廊下を歩いている最中やけに見られていたことや、現在も食堂中から視線が集まっていることには気がついていた。どうでもいいので放っておいたが、やはりこうも見られていると気になる。
(見た目は人間と全く同じはずだが…)
ウェイターが注文しておいたコーヒーを震える手で置き、逃げるように去って行く姿を見送った。
任務に支障を来すようでは問題だが、今のところ実害はないので置いておくことにして、ヴェルサスは瞳を閉じて意識を集中させた。そうすれば、頭の中に情報が羅列されていく。
死神たちはこうして、様々な知識──例えば人間界の常識など──を情報として、データのようにして頭の中に蓄積している。それらはいつでも閲覧でき、知りたいことを検索したりすることもできる。人間界で過ごすには欠かせない機能と言えよう。
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