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――「……あたし、アイツ嫌いです」
あたしは少し冷めた紅茶が入ったカップを掴む両手にぎゅうと力を入れながら言った。
「だって、あたしの事あの人絶対嫌いだし、話しかけても反応ないし、そのくせ仕事はできるし、無駄に顔もいいし……。と、とにかく、あんな奴、好きになんかなる訳ありませんから!」
あたしの様子を見て祥子さんは、一呼吸置くように紅茶を一口啜ってから言った。
「……じゃあ、どんな人がいいの?」
「あたし、大政先生みたいな年上の大人の男がタイプなんです」
大政先生。
あたしの高校時代の憧れの人、その2。
「背も高くて、格好良くて、授業も分かりやすくて、眼鏡が似合ってクールで、でも優しくて、あーあ、どっかにいないかな、そんな人」
祥子さんが不思議そうな顔をする。
「環奈ちゃん、それ、増井くんとどこが違うの?」
「違いますー!クールと無愛想は別物なんですー!」
「私にはさっきから環奈ちゃんが言ってることとほとんど同じに聞こえるんだけど……。増井くんが優しいかどうかは別としてだけど」
それから祥子さんはカップを置いてはぁっとため息をついた。
「環奈ちゃんって、本当素直じゃないよね」
この人からそれを言われるとは思いもよらなかった。
あたしは悔し紛れに言い返す。
「祥子さんには、言われたくないですよ」
「え、それ、どういう事?」
祥子さんはキョトンとしている。
「ふふ、秘密でーす」
まあ、素直じゃないかどうかは別として、あたしがひねくれてるっていうのは自覚ある。
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