26人が本棚に入れています
本棚に追加
ガチャッ。
ドアが開く音がして、あたしは振り返った。
「あ、環奈ちゃんか、こんにちは」
「佳祐さん!お邪魔してます!」
部屋の奥から顔を出したのは、祥子さんの旦那さんの佳祐さんだった。
祥子さんといる時はすごく柔らかい印象の人なんだけど、ああ見えて一部上場企業で出世コースまっしぐらのエリートらしい。
人は見かけによらないもんだな、と佳祐さんを見ながらあたしはしみじみ思ったり。
まじまじと見つめるあたしを佳祐さんは不思議そうな顔で見る。
「佳祐、出掛けるんじゃなかったの?」
その時祥子さんが紅茶を淹れて戻って来た。
「うん、もう少ししたらね」
祥子さんを見て佳祐さんは、ますます柔らかい顔で微笑む。
やっぱり、好きな人と一緒にいるからなのかな。
あの柔らかい感じは。
二人の仲の羨ましさに、あたしはちょっと意地悪な冗談を言う。
「すみません、祥子さん取っちゃって」
佳祐さんは笑った。
「いいよ、後で思いっ切り一人占めするから。ね、祥子」
佳祐さんは茶目っ気たっぷりの顔をして祥子さんの方を見る。
あたしの前に置かれるはずだったティーカップがテーブルとぶつかって、ガションと大きな音を立てた。
最初のコメントを投稿しよう!