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「でもいいなー、祥子さん。あんな素敵な旦那さんがいて。あたしも早く結婚したーい」
あたしは砂糖を大量に入れた紅茶をスプーンでかき回しながら言った。
「環奈ちゃんはその前に彼氏でしょ?」
「うっ……」
痛い所を突かれた。
実はあたし、ここ数年彼氏がいない。
高校の頃はよく街で声を掛けられた事もあったんだけど、あれってもしかして、ただの制服効果だったのかなって思うくらい、全然モテない。
「だってー、いい人いないんだもん」
「その増井って人は?」
その名前に反応して、あたしは思わず声を荒げる。
「あんな奴、ありえないですよ!」
「でも、顔はいいんでしょ?私の部署でも新入社員で格好いい男の子が入ったって騒いでたよ?」
あたしはあいつの顔を思い浮かべる。
決して大きくはないけど切れ長の目に、自信たっぷりに見える口元。思わず触ってみたくなるようなふわふわの髪。
「そりゃ、顔は確かにイケメンかもしれませんけど……」
だけど……。
『ギャーギャーうるさい女は嫌い』
彼の声がふいに脳裏をよぎる。
あの日から、あたしは彼が嫌いだ。
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