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――ついこの間の事だ。
あたしの部署で、先輩達が新人であるあたしたちのために歓迎会を開いてくれた。
上司も先輩達も皆優しくて良い人で、一生懸命あたしたちの緊張をほぐそうとしてくれた。
おかげであたしもリラックスできて、すっかり良い気分で歓迎会を楽しんでいたんだけど。
「なあ増井、寺島みたいな子、どうよ?」
酔った先輩が、突然そんな事をあいつに言った。
あいつは飲みかけのビールジョッキを掴んだまま顔を上げて、先輩を見た。
そんな事を聞かれたあいつもあたしもたまったもんじゃない。
あたしは慌てて先輩を止めようとした。
「えー、ちょっとやめてくださいよ、藤本さん」
「いいじゃん、寺島可愛いんだからさ。せっかく同期2人なんだし」
先輩は意味不明な理由を付けてあいつに近寄っていく。
「あたし可愛くなんかないですから!増井くんだって迷惑に思いますよ?」
「えー、だって寺島だってちょっといいって言ったじゃん」
「そ、それはっ……!確かに顔は格好いいって思いましたけど……」
「なー、いいよな、増井?」
あいつは何も言わない。
「ごめん。困るよね、増井くん」
ますます焦ってあたしがフォローしようとすると、あいつは表情を変えないままあたしに目線を移した。
「……」
「……?」
あいつはそのまま数秒間、あたしを見つめて、そして興味が失せたようにふいと顔を逸らして言った。
「……ギャーギャーうるさい女は、嫌い」
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