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あたしも先輩も、周りでそのやり取りを聞いていた人も何も言えなくなって、楽しい飲み会だったはずのその空間は、一瞬で最悪なものになった。
「あ、あの……えっと……」
あたしがその重い空気に耐えきれなくなり、何か言わなくちゃ、そう思い始めた頃。
「おい藤本、飲み過ぎだろ。それに増井も寺島も、どれだけ飲んだんだ?皆酔いすぎだろ」
部長が笑いながら言ってくれて、そこでようやく皆の顔が緩んだ。
その場はそれ以上気まずくなる事なく済んで、あたしはホッとしたんだけど。
でももっと最悪だったのは、その帰り道。
「増井、お前寺島と同じ方向だろう?家まで送ってやれ」
「えっ……!?」
そういえば、あたしと彼の家は比較的近い場所にあった。
「でも、あの……あたし、一人でも帰れますから」
「若い女の子一人だけで帰す訳にはいかんだろう。駅前でタクシーでも拾って二人で乗っていけ。いいよな、増井」
うわ、どうしよう……。
彼の方をちらりと見たけど、あいつは嫌そうな顔を少しもせず、一言「はい」と答えただけだった。
「行こう」
そう言ってあいつは勝手に歩き始めてしまう。
あたしは仕方なく彼の後を追った。
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