第12話

9/30
前へ
/30ページ
次へ
あたしはよろめくような形で、後方へ一歩後退する。 さっき息が止まっていた反動からか、 今はバクンバクンとうるさく鳴る心臓。 誰の婚約者ですか? なんて、聞く必要などない。 この部屋にいたんだ。  そんなの、わかりきっているじゃないか。 「そうそう、 圭介さんから“屋上に来て下さい”と言伝を預かっています」 あたしは頭が真っ白になりながらも、 なめまわすように彼女を上から下までくまなく見た。 ひどく不躾(ブシツケ)な行為だと思う。  でも、そうせずにはいられない。 「すぐに行ってあげて下さい。用件はそれだけです」 “婚約者”である彼女が淡々とあたしに言い放つ。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1499人が本棚に入れています
本棚に追加