序章

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 西田の食後から定食屋を後にした署までの道すがら、吉村から常紋トンネルについての概略を教えて貰う西田であったが、なるほど確かにリアリティのある「心霊スポット」だと感じた。基本的にはこの手の話には興味がないだけでなく、胡散臭さの方を強く抱いている彼であったにせよ、現実の過酷さはそれを思いとどまらせるものだったということなのだろうか。  そんな話が丁度終わった頃、2人の職場である「遠軽警察署」が視界に入ってきた。交代で昼飯を待っている部下が待っているはずで、やや遅れ気味の到着を挽回するため2人はほとんど無意識に小走りになった。    西田らの勤務する遠軽署のある遠軽町は、道東の北見市と紋別市の中間に位置する、畑作と自衛隊の駐屯地の町である。人口は1万8千弱。名前の由来は、アイヌ語のインガルシ(眺めのよいところ)から来ている。かつては国鉄名寄本線と石北本線の接続駅として交通の要衝であったが、名寄本線が廃止されるに至り、石北本線のみの駅となった。そのかつての路線形態の影響で、一本の路線上にあるにも関わらず、石北本線は遠軽駅で進行方向が一度逆向きになるという特殊な駅になった。元々は、北見から旧名寄本線に抜ける鉄路が本線だったことがその原因である。    そして件の遠軽署は、その遠軽駅から徒歩で10分ほどの閑静な場所にある警察署だ。管轄地域の周辺町村含め、平和な町で警察沙汰もほとんどないが、ここに限らず基本的に田舎の警察は「のんびりマイペース」なことに変わりない。
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