死の歌声

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十年前、僕は確かにその少女に出会っていた。 それはもう美しい歌声の持ち主で、隣町にまで名が届くほど有名な少女だった。   当時十才だった彼女が町の小さな公園でひとたび童謡を歌い始めると、その歌声に釣られるようにして人々はやりかけの仕事を放り出し、公園に集まり始める。かくいう僕も探偵の調べ事を休憩して毎日のように彼女の美しい歌声を聞きに行ったものだ。   僕達は彼女に緊張を与えぬよう、遠くから見守り、耳を澄まして彼女の歌を聞き入れる。そして、歌が終わると、何事もなかったかのように立ち去るのだ。それがこの小さな町での決まりであり、彼女の歌を聞けるただ一つの条件である。 決して彼女の前で観客として聞くことは許されないのだ。   しかし、僕は一人彼女の前で観客としていられる。   朝の五時頃に人目を忍んで公園に現れる彼女の唯一の観客として僕は彼女の歌を聞く事が出来る。初めは公園で歌の練習していた所をふと目にしただけだったのだが、気づいたら彼女の歌を間近で聞くようになっていた。 初めこそは自分を拒んでいた彼女も時が過ぎるに連れ、心を開いてくれるようにもなった。 「また明日も来てくれますか?」   その言葉を耳にしたのは彼女と対面して一ヶ月の事だった。だから僕も答えるように次の日も公園へと足を運んだ。   いつものように僕が聞きに来たのに気付いた彼女はまるでステージに立っているかのように噴水の前に立つと、こう言うのだ。
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