死の歌声

6/18
前へ
/18ページ
次へ
ふと思い出した十年前の記憶に懐かしさを覚えながら僕は再び歌の町ウェールズを訪れていた。   それはウェールズの町長から直々に探偵である僕に依頼が来た事から始まる。 『十年前、ウェールズから追放した事をなかった事にしても構わない。しかし、ただ一つ条件として町で起こっている不可解な死の原因を突き止めて欲しい』、と。   ウェールズからそう遠くない町に新天地を置いていた僕にわざわざ手紙をよこすとは何事かと思い、僕は急いで支度をし、ウェールズへと向かったのだ。   耳が不自由な僕に町の賑やかな歌は聞こえない。 見える景色は楽しそうに見えても音のない世界は寂しく映る。久しぶりにこの町にやってきたと言うのに気分が高揚しないのはこの寂しさが原因なのだろうか。 「よし、仕事を始めよう」   探偵は受けた依頼をこなすのが仕事だ。報酬としてこの町に再び来られたのだからその期待に応えるとしよう。   何から始めようか? 聞き込み調査? いや、耳の聞こえない僕には不向き。では、いつものように、その事件に遭遇するまでぶらりと町を見回ろうではないか。   町の風景は十年で少し変わった。町開発、自然災害、それも一つの原因かも知れないがなにより十年前に比べ町人が少なく見える。   彼女が歌っていた公園も今では老人が一人散歩している姿が見えるだけで実に物静かだ。   町を歩く。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加