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『死の歌声』。
家に着いて直ぐ、町長はこう言った。
もうだいぶ老いてしまった町長も分からない部分が多いらしく、『とある女性の歌声を聞くと、しばらくして自分に必ず死が訪れる』という噂を耳にしただけの事。
死者は何も語らない。歌声を聞いたものは皆全員死者としてあの世にあり、この噂を証明する物は誰もいない。
その死者が皆、共通してとある少女の歌声を聞いていた事だけが分かった。
これ以上は分からないと首を横に振る町長を後にした僕は再び町を歩く。行くあてもなく、ただぶらぶらと。
もう一度公園を訪れてみると、さっきはいなかった一人の女性が目に入った。
十年前、この昼の時間によく現れて歌を歌っていたあの少女と姿が重なる。
十年程の月日が経てば彼女もあのように立派な女性に成長している事だろうと思い、僕はその女性の様子を伺った。
頭を下げ、息を深く吸い、吐いた女性は口を大きく広げると、歌い始めた。
どのような歌声でどのような歌を歌っているのかは当然耳の聞こえない僕には分かった事ではないが、横で僕と同じようにして聞く一人の老婆は心地よさそうにその歌を聞き入れていた。
歌が終わる。
『死の歌声』、彼女がもしその歌声を持っているとしたら……僕は一つの推測の下、歌い終わってからの老婆の様子を伺った。
去る彼女を横目に僕は散歩を再開する老婆の後を追う。
しばらくして、その現象は予期せず起こった。
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