1人が本棚に入れています
本棚に追加
/28ページ
気が付くと、フィティマの胸の中にいた。
思わず、その体を手で押して突き放す。
顔を見合わせると、フィティマの眼が見えた。
赤く、透き通るような優しい瞳。
先ほどのような狂気に満ちたあの男と違い、吸い込まれそうになった。
「光栄に思え。」
「え?」
フィティマは少年から離れた。
「ところで、お前の名前を聞いてなかった。アルケミーと呼ぶのも気が引ける。」
「俺?俺は…えっと…ナンバー…」
「ん?施設ではそんな家畜のような名前を付けられるのか?」
「これ、名前じゃないのか?」
フィティマは少年を見て考え込む。
「…エルム。」
「え?」
フィティマは少年の腕を掴み、そこに刻まれている元の名前の焼き印に手をかざす。
「お前は今日から『エルム』。神官直通者序列第1位、フィティマ・エイン・クライムの名において、新しき名を刻むことを許そう。」
エルムの腕から焼印が消えた。
「これ…洗ったって取れなかったのに…」
「容易いものだ。この程度を【破壊】するぐらいな。」
フィティマは立ち上がり部屋の目の前にあるバルコニーへ行くためのガラス戸を開く。
「な、に…?」
「安心しろ。俺は別に、お前を叩いたりはしない。」
フィティマは先に出ていく。
エルムはその後を付いて行った。
「残念だな。雨でなければ、もっと良い景色だったんだが。」
フィティマは傘を片手に、エルムを手招きする。
エルムはフィティマの横に来て、その景色を見た。
そこは煌びやかな明かりが、街いっぱい広がっていた。
雨に濡れて、輝きが余計に増して…
「すげぇ!なんだよこれ!?これが…街なのか!?」
「光の国だ。戦火が落ち着いた時には、こうして人口太陽を消し、光の技術を楽しむ。」
「あの向こうに、色々売ってるって聞いたことがあるぞ!」
「行ってみたいか?」
「うん!これが外なんだ…俺が夢に見た……自由な世界。」
エルムの目は輝いていた。
その姿にフィティマは笑う。
最初のコメントを投稿しよう!