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部屋を指紋認証で開けようと、センサーに指をかざすと
―ピーーーッ 本人だと認識できませんでした。
その指を見ると、血で指の半分ほどが隠れていた。
仕方なくカードキーで開けるか、と胸ポケットからカードケースを出すと、革で作られたそれは血に濡れ、赤くなっていた。
それは母が十六の誕生日にくれたものであり、母の最後のプレゼントである。組織との戦いにおける流れ弾にあたった母は植物状態になり、三年たった今も、目覚めることはないのだ。
苛立ちが最高潮に達しながらも、ドアを開け、銃剣からもう錆びて使えない刃を折り取って捨てると、貴重品を取り外して、服のままシャワーにつっこんだ。
「……ふぅ」
冷水では血は落ちないが、その冷たさが葛藤と苛立ちとをまた心の深いところに封じ込めてくれる気がした。
水が仄かに暖かさを帯びてきて、赤みを解きほぐして行く。
強くなでつけた石鹸は、赤を押し隠していくように見えた。
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