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雷鳴が轟く中、彼女は一人薄暗い部屋の中に居た。
アンティーク調の家具で揃えられた部屋。
その部屋に不釣り合いなほどの最新型のパソコン。
彼女は、そのパソコンのモニターの前に座っていた。
「ふむ、この機を逃す手は無いか……」
胸元の空いた、しかし気品のある黒いドレスを身にまといそう呟く彼女は、歳の頃なら20代前後。
絹の様な美しい髪を後ろで束ね、赤渕の眼鏡をかけたその顔は端正な顔立ちをしている。
しばらくパソコンのモニターを見つめていた彼女は、ふいに胸元から何かのカードを取り出すと、虚空に投げ、口を開く。
「アルカナ」
そう彼女が口にした途端、宙を舞い、枯葉のように床に落ちるはずだったカードは、時が止まったかのように虚空にとどまり光を放つ。
次の瞬間、雷鳴の轟きが止むのを待っていたかのようにカードがとどまっていた場所にもう一つの人影が現れる。
「導きのアルカナここに。フーリー様、何か御用でしょうか?」
そこに現れたのは自らをアルカナと名乗り、パソコンの前に座る彼女へと優雅に一礼する少女。
深々と下げた顔を上げると、彼女もまた端正な顔立ちをしており、まだ10代といった少々幼い顔をしている。
オッドアイという左右の瞳の色が違うこの少女。
しかし、彼女には明らかに人では無い特徴があった。
それはカードがあった場所から現れた事だけではなく、彼女の額には小さな二本の角があったのだ。
アルカナと名乗る少女は、背筋を伸ばし姿勢を正すと、黙して主人であろう女性の言葉を待つ。
「すまんなアルカナ。少々頼まれてはくれないか?」
フーリーと呼ばれた女性は、椅子から立ち上がると心底申し訳なさそうな表情でアルカナにそう告げる。
「頼み……ですか?」
再び鳴き始めた轟雷。
その荒々しい閃きを背に立つ主人を見てアルカナは戸惑ったように質問を返す。
主人の意向を実現するのが自分の役目。
そう考え実行してきたアルカナが主人の頼むという言葉に戸惑ったのには訳があった。
それはシンプルで重要な事。
アルカナは、主人のこんなにも思いつめた表情を見た事が無かったからだ。
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