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「ああ、漸く機が訪れたのだ。私の兼ねてからの願いを叶える……な」
そう口にするフーリーの表情は、言葉に反してどこか曇りを帯びていた。
「そう……でしたか。おめでとうございます、フーリー様」
「うむ……」
言葉の上ならば、待ちかねた願いが叶うかもしれないという期待と歓喜に満ち溢れる時。
だというのに向かい合う二人の表情は、まるで外で今まさに轟雷を従える黒雲のように暗く、重く見える。
轟雷だけが猛り、泣き叫ぶ中、二人はしばらく口をつぐみ、部屋には沈黙の時が訪れる。
ややあって、
「本当にすまない。これは私の我儘だ。結果、お前を……」
「フーリー様!」
「む?」
漸く口を開いたフーリーの謝罪の言葉を凛としたアルカナの声が遮る。
彼女は主人の言葉を遮ったまま僅かに口をつぐみ、こう続ける。
「私はあなたの家具。あなたに仕えた瞬間から私にはあなたの願いを叶える事だけが最高の喜び。その結末がいかような物であろうと遂行いたします。どこまでも虚ろで、悲しい程に滑稽なあなたの為に」
少女の言葉には言いようの無い力強さがあった。
そして、主人に向けられる赤と緑のその瞳にも……
「そうか、ありがとうアルカナ」
自らを滑稽と称した少女に、フーリーは怒りを見せる事無く穏やかな口調で礼を口にする。
そして目を閉じ……
「ではアルカナ、ゲームの準備をしろ!私の望みを叶えるためになぁ!」
真紅に光る瞳を開き、フーリーが先程までの陰鬱な雰囲気を吹き飛ばすかのように腕を大きく振り、アルカナへと命じる。
その表情に、先刻までの憂鬱な表情をした悲しげな女性の面影は無い。
「かしこまりました。仰せのままに……」
短い返答の後、霞の様に姿を消すアルカナ。
あとには再びフーリーだけが残される。
「我が名は混沌の魔女フーリー。人間よ、我が望みに応えよ!」
降りやまぬ雨。
鳴りやまぬ雷鳴。
闇と光が点滅する空間で、魔女の歓喜と狂気の入り混じった声が響いていた……
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