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雨宮さんという人
「今、お母さんに話をつけるから、待ってて」
そう言って彼は立ち上がり、私の家のインターホンを押す。
ピンポーン
「こんばんは、向かいの雨宮と言いますが」
彼の名前は雨宮さん。そういえば、向かいのアパートから出てくるのをよく見かけた。
ガチャ
家の玄関が開き、その音に心臓が縮む。
「こんばんはー。雨宮さんが私に、何か用ですかぁ?」
…お母さんだ。喋り方は違うけど、声は本人のモノだ。
…怖い。
「大高さんの娘さん、この雨の中何時間外に出してたんですか?今は、夜の9時ですよ」
…私に喋りかけてくれた時と打って変わっって、とても怒るような口調。…別人みたい。
「雨宮さんの言い方やと、私が悪いみたいな言い方ですね。」
「まぁあ」
「私にとって、恵はじゃまなんです」
…もういいです、雨宮さん。そうなんです、お母さんの言うとうりなんです。…だから…。
「恵さんをどうするつもりなんですか?」
「…捨てるつもりでした」
…やっぱり。…私もね、もういい加減、頃合いだと思っていました。私、捨てられるな…と。
分かってたけど…言われると、胸が苦しくなる。それと同時に、お母さんから解放されて嬉しい気持ちになる。
…複雑…。
「じゃあ」
「何ですか?」
「僕に恵さんをください」
「…は?何言うてはるんですか?」
さすがのお母さんも、雨宮さんの言葉に驚いたらしい。
…私だってびっくりだよ。だって、雨宮さんがプロポーズみたいなのをしたから。
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