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しかし、峠の至る所で斬り合いが起こっている中、ただ一人、腰に下げた刀を抜きもせずに、枯れ木に背を預けて欠伸なぞを零している若者がいた。
年の頃は十代の半ばか、少し若い。黒の総髪には、返り血と思しき赤が彩られ、言いようもない美しさと、血が凍える程の妖艶さを醸し出している。
顔立ちはまるで女子のよう。だがその眼光は、鍛え上げられた一振りの名刀の如く鋭い。
髪同様、血に濡らされた縹染めの着流しを気軽に着こなした少年ーーー方喰〈カタバミ〉は、腰に下げた無銘の打刀の柄尻に手を添えたまま、枯れ木の一つに背中を預けていた。
外見に似合わぬ細身ながらに筋肉質な長身を有する彼は、目の前で繰り広げられている敵味方入り乱れての絶戦を、ひどく憂鬱な眼差しで俯瞰していた。
(…………弱者ばかり……まるでママゴトだ)
それが、彼の心中に渦巻く感情だった。
つまらない茶番劇を延々観せられてきたかのような虚脱感溢れる表情で、方喰は静かに閉眼した。
最早、見る価値も無いと言わんばかりに。
惨劇を体現したかの如き戦であっても、方喰の感想はそれのみだった。
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