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彼から三間(一間は約1.8m、ここでは約2mとする)ほど離れた場所では、殺人を容易くこなせる刀と刀の壮絶な打ち合いが演じられているというのに、方喰は全くといっていいほどに、気にもしていない。
くあっ。
と、あまつさえ戦場の只中でありながら、呑気に欠伸さえし始める。
そのうち立ったまま船を漕いでしまいそうな、そんな気さえする程に、彼の存在はこの戦いの雰囲気と現状から、これ以上無く乖離していた。
「ーーーがはっ………!!」
その時、方喰が袂を同じくとする、《谷の国》の足軽の、この場における最後の一人が、頸を真一文字に斬り裂かれた。
切り口から尋常ではない血が噴き出て、局地的な赤い鮮血の雨を降らす。
その出血量は致死の域。
斬られた足軽は、すぐさま物言わぬ死体の一つとなれ果てた。
「へえ……少なくともこの場では、数じゃあコッチが上だったんだけど………存外、期待できそうかな……?」
これで《山の国》の兵にとって、今この場における最後の敵は、周りを十数人に囲まれながら、全く表情を変えぬ方喰のみとなった。
しかし、《山の国》の兵たちは、残り一人となったにも関わらず、即座に斬りかかる事が出来ずにいた。
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