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自らよりも一回り、あるいは二回りは年の離れた少年に、十七人もの物量でありながら、襲いかかる事が出来ずにいた。
理由は分からない。だが、彼らの本能が告げたのだ。
ーーーこいつと戦えば死ぬ、と。
当の方喰は、依然として枯れ木に背を預けたまま、変わらずに目を閉じ、あまつさえ口角を僅かながらに上げている。
「…………ッッ!」
業を煮やしたのか、方喰の周囲から隔絶した雰囲気に恐怖したのか。
一人の兵が、彼に向かって突貫した。
そして大上段に構えた打刀を、一息のうちに方喰の頭頂に叩き込むーーー。
「ーーー鈍(のろ)いぞ」
その時、チンッ、と。とても小さな音がした。
瞬間、刹那の時もなく、方喰に襲いかかった兵の首が斬り飛ばされた。
刃が振られた一閃の残光すらも見えぬ程の斬撃が、それを成したのだ。
行ったのは誰か。言うまでも無い。
何一つ変わらぬ立ち姿のまま、不動の如く木に寄り添う少年ーーー方喰によるもだ。
先の小さな音は、刀を鞘に戻した時の音だろう。
目にも止まらぬ早業を目の当たりにした兵たちは、眼前の童とも言える子供に、かつてない戦慄を覚えた。
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