彼女に、僕が監督と呼ばれた日

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彼女に、僕が監督と呼ばれた日

 いきなりで申しわけないが、将来は映画監督になるのが僕の夢だ。    壮大なのか、どうなのか、聞いた人も判断に困る夢だと思う。  果たして実現可能なのか、そうなるためには、普通高校ではなくて、映像系の専門学校へ行った方がよかったのか、僕にはよくわからない。    とりあえず、いまのところ僕はこの夢を誰にも話したことがない。  中学の進路相談でも、もちろん言わなかった。  相手が例え親友でも人に話すのははばかられる。両親も僕の夢を知らない。 映画監督になりたい、と人に言わないのは、笑われるのが恥ずかしいとか、怒られるのがこわいとかではなく、ただ、なんというか、この夢を言葉にして僕の中から外の世界へだすと、僕は自分が退くに退けなくなる気がする。  県立H高校。僕がここへ進学した理由は、家からほどほどに近くて、成績的にもちょうどよくて、だけではなく、H高には映画研究部があった、だから、僕は同じようなレベルのいくつかの高校の中からH高を選んだ。    ネットでH高のホームページを調べたところでは、H高の映画研究部はこれまで目立った活躍をしたこともなく、毎年、部員みんなで文化祭で上映する映画を撮ったりしてマイペースに活動しているらしい。  大げさかもしれないが、僕の映画人生を始めるにはちょうどいい部活動だと思う。 「入部希望ですか。きみは映画が好きなんですね」  入学してさっそく映画研究部顧問の尾崎先生に、入部届を提出しに行った。 「は、はい。まぁ、それなりに」 「映画研究部のみなさんは、特別、映画マニアってわけではないですけど、君は好きな作品や尊敬する映画監督さんなんかはいるんですか」 「好きな映画は、「桐島、部活やめるってよ」です。感動しました。監督は、まだ映画をそんなにたくさんみてないので、これからみつけたいです」 「そうですか。「桐島~」はいい映画ですよね。私も、大学生の頃は演劇をやってましてね。昔は、休みは映画館に一日中いたりもしました」  年齢は五十代半ばくらいか、白髪で老けてはいるが、よくみると尾崎先生はなかなか整った顔をしたハンサムだった。身長も百七十五はあるだろう、背すじがのびてていて姿勢もしゃんとしている。 「役者さん、ですか」 「あくまでアマチュアです。ははは。君も役者志望ですか」 「い、いえ。違います」     
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