彼女に、僕が監督と呼ばれた日

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 放課後、さっそく映画研究部の部室へむかった。 「ごめん。せっかく入部してもらって悪いけど、今日、部室に顔をだすのはオレだけだと思うんだ。  ウチの部は、普段は火・木曜しか集まらないんだよね」  会長の三年生の森崎亨(もりさき とおる)先輩は、メガネをかけた穏やかな感じのお兄さんだった。 「基本的な活動は、週二回のミーティングと年一回、文化祭で上映する映画の製作。あとは、機材はあるからそれを使って自分で映画を撮ったりする人もいる。視聴覚室も自由に使えるんで、スクリーンで映画をみたりもできるよ」 「スクリーン、ですか」 「200インチのやつ。なんなら、今日、いまから観てくかい。オレは用事があるんで付き合えないけど、視聴覚室の借り方と設備の使い方を教えとくよ」 「ありがとうございます。僕一人で使っていいんですか」 「うん。映画は部室にあるDVDやブルーレイを好きにみられるから」  決まり事を一通り教えてくれると、僕を残して森崎先輩は帰っていった。  これはまさに僕が待ち望んでいたシチュエーションだ。  こんなに早く願いが叶うとは。  僕は、いつかのために鞄に入れておいたDVDをだして、再生機にセットした。  いまから視聴覚室は、僕だけのための試写室になる。  上映する作品は、僕の第一回監督作品だ。  家にあったカメラで撮影して、親父のパソコンをこっそり使って編集した完成まで三以上かかったドキュメンタリー。  パソコンのモニターではなく、もっと大きな画面で自分の作品をみたかった。   さすがに映画館の本物には劣るが、200インチもあれば十分だ。    窓に暗幕をして、室内の蛍光灯を消すと、僕はスクリーンの正面の席に座って、リモコンの再生ボタンを押した。    
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