彼女に、僕が監督と呼ばれた日

3/7
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 本編終了後、黒一面になったスクリーンに、下から、総監督の肩書きとともに僕の名前が上がってきて、そのまま画面上部へと流れ、消えていった。  エンドロールに記されたスタッフは僕一人だけだ。監督も脚本も撮影も音楽も、全部、僕がやったのだから。  リモコンの停止のボタンを押して、上映を終了する。  後悔と、脱力感と、恥ずかしさで、席から立てない。  そのまま、前に突っ伏して机に額を押しあてた。  それなりに考えて作ったつもりだったのに。  自分の作品を大きなスクリーンで見て、こんなにダメージを受けるなんて。  二度と映画は撮らない方がいいかもしれない。映画研究部も退部しよう。才能がかけらも感じられない。いてもムダだ。僕なんかが映画を作ったら、今度は、学校中の笑いものになる。  無意識のうちに、僕はうなっていた。頬が濡れているのも感じる。  自分の映画のあまりの不出来さに僕は泣きだしていた。  と、自分のうなり声の他に、その音が聞こえてきた。  ぱちぱち。耳に入ってきたのは、僕以外の誰かがしている、拍手の音だ。  驚いて立ち上がり、室内を見回した。  スクリーンに集中するために明りを消した視聴覚室の片隅に立って、その人は僕の方をむき、拍手を続けている。  誰だ。ここには僕しかいないんじゃなかったのか。小走りに壁まで行って、室内の蛍光灯のスイッチを入れた。  そして、光が満ちた室内で、小柄で内気そうな、おっとりした雰囲気の少女が、僕に微笑みかけ、 「監督。素晴らしかったです。もしかして、これは処女作ですか?」  僕が気絶しそうな言葉を口にしたのだった。    
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!