彼女に、僕が監督と呼ばれた日

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「時間はたしか、「6才のボクが~」は三時間少しありましたね。 退屈かどうかは見る人次第でしょうけど。 しかしお言葉ですが、監督御自身の作品も約三年間の時間をかけて、架空のストーリーを一人に子供に演じさせた内容ですよね」 「結果としてああなっただけだよ。  はじめは隣の家の小さい子を撮影をしただけ。  子供はみてておもしろいし、本人も家族の人も喜んで撮らせてくれたから。  そうしたら、あの家はお母さんがでていっちゃったり、よく面倒をみてくれていたおじいさんが亡くなったり、いろんなことが立て続けにあってさ。  映画にも撮った通り、あの子が一人ぽつんと家の前にいる時間が増えて」 「それで、僕はきみのお兄さんだとウソを言って、彼を連れて、彼と彼の兄さんである監督さんの、どこかにいる本当の御両親を探す、町内探検旅行を繰り返したんですね」  いいことかどうかはわからないけど、放っておけなかった。  僕と町を歩き回る時の彼は、いつも楽しそうだった気がする。 「映画の最後で少年を迎えに来たお母さんは、誰なんです。まさか彼の本当の」 「たぶん親戚の誰かだよ。僕もくわしくは知らない。でも、あの子を引き取って養子にして育てるって、僕には言ってた」 「そのお母さんと一緒に彼は、監督さんに別れを告げにきたんですね。泣きながら、お兄ちゃん、さよならって。  彼、監督さんが自分と兄弟ではなく、ただの近所の人だって知ってたんじゃないでしょうか」  かもしれない。  彼が思いたいように思ってくれていれば、僕はどうでもよかった。 「ほら。いい映画じゃないですか。「6才のボクが~」もそうですが、例えなにげない場面でも、登場人物にとって二度とこない、かけがえのない一瞬をフィルムに焼き付けられていれば、映画はそれでいいのですよ」
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