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「ようするに、監督さんの映画を私は認めます。あれ、これ、作中でタイトルがでてきませんでしたね。題名はなんていうんですか」
「タイトルは特にないよ。映画監督に憧れて、一人で撮っただけだから。 照明は自然光で音も雑音だらけ、カメラが意味のない方むいてる時もあって、メチャクチャだ」
言ってるうちにまた恥ずかしくなってきて僕が下をむくと、御園さんは僕の右手を両手で包んでくれた。
「感動しました。これからも、素敵な映画をみせてくださいね」
「そ、そ、そ、そんな、僕みたいな才能のない人間は、もう二度と映画なんかとらない方がいいと思うし、御園さんから見れば、僕の作品はアラが多すぎて、ほんとはきっとあきれてて」
御園さんの手にぎゅっと力が入る。
小さい頃は別として、同い年の女の子に手を握りしめられたのははじめてで、僕はどうしていいのか、わからなくなった。
「あの、あの、僕は映画、撮らない方がいいですよね」
「映画、撮ってください。私、待ってますから。観客がいる限り、映画は作り続けられなければならないんですよ。映画がなければ、批評家は生まれません」
ストレートのショートヘアの、おっとりした空気に包まれた御園さんが、本気なのが伝わってきた。
御園さんは、どうしてそんなに映画に夢中なの? 思わず聞きそうになって、僕はたいして考えもせずに、
「はい。僕、これからも映画を撮ります」
こっくりと頷いてから、御園さんは唇の両端をあげ、かわいらしく微笑んだ。
第一章「彼女に、僕が監督と呼ばれた日」了
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