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とある世界の、とある場所。
世界の中央には、ひとつの巨大な火山が存在した。
常にドロドロと溶岩を流し出し、噴火が頻繁なのは当たり前。
そのような危険な地には、どんなに度胸のある人も寄り付こうとはしなかった。
そう……″しなかった″。
しかし現在、火山の頂上には2つの人影が揺れている。
1つは、地面に伏せて痙攣する影。
1つは、長いコートの裾が風によってバタバタとはためき、相手を見下ろして佇む影。
「この私が……、負ける、など……ッ!」
苦痛と絶望、驚愕に満ちた声が、這いつくばる誰かから発せられる。
子供が耳にすれば震える程の低い声の持ち主は──この世界の【邪神】。
他の世界と比べ、比較的に巨大な魔法が浸透した世界で、″最強最悪の神″と恐れられた神が、新たに現れた1つの存在に成す術も無く叩きのめされたばかりだった。
「ここまでされてまだ認めないのか?……弱いんだよ、お前は」
嘲るような声が邪神の鼓膜を震わせ、感情を刺激する。
ギリッ、と歯を食い縛る邪神を余所に、1人彼は語り出す。
「ったく……。俺達【邪神】はな、確かに大まかに考えると自由な存在だ。でも規則はある。世界に【邪神】という存在を知られてはならないし、世界全体が変化するような干渉も許されない」
ハァ、と小さく溜め息を漏らす彼──〈神原 零真〉は、声色を一層低くする。
「そんなの、【邪神】になった瞬間から常識だった筈だろ。″世界を1度壊して再生し、自分が望む世界にする″なんて考え、魔王だけで十分だ。…………お前みたいな奴がいるから……」
言葉が1度止まり、彼の目が鋭く細められた瞬間、【邪神】の頭だけが突然炎に包み込まれた。
「ぁぁぁぁぁぁああぁぁああぁああぁああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!」
絶叫が零真の耳を勢いよく貫き、肉が爛れ焼けていく臭いが鼻孔を刺激する。
やがて炎が消えると、頭蓋骨が所々剥き出しになった、見るも無惨な頭をした死体が完成した。
見慣れた死体というモノを見下ろし、彼は冷たく言い放つ。
「……まるで世界を蝕むように、持論しか持たない奴が出てくんだよ」
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