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「……もしかして、どこか怪我したか?」
直ぐに返答しなかった所為か、青年は眉根を寄せて怪訝な表情で問う。
俺は慌てて、といった風を取り繕い、小さく笑みを浮かべた。
「あ、いえ、大丈夫です。助けていただきありがとうございました」
わざとらしく安堵の声色を放ちつつ、コートに付いた砂を手で払う。
俺の言葉を聞いて安心したのか、彼も表情を柔らかくした。
「そうか、なら良かった」
「本当にありがとうございました。さっきの出来事で辺りの怪物も皆逃げていきましたし……。礼が出来なくてすみません。じゃ、失礼します」
……コイツと面倒な関わりを持つ前に、即刻立ち去る。
だから当たり障りの無いよう、視認される前に特徴の無い平凡な顔に見えるよう幻術をかけ、普通に応対した訳だ。
決して印象に残らないように。彼からすれば″助けた人間がいた″程度になるように。
元々の【邪神】の能力で、世界に乱入した瞬間には大体の情報を得られている為、コイツの正体が何なのか、そして近くに小さな村があることを知っている俺は、踵を返しその方向に歩き出そうとしたが、呼び止める声がその邪魔をした。
「あ、おい!」
あ?……あーヤベ、表情が顔に出る。
「……何でしょうか」
足を止め、顔だけを振り向かせる。
出来ることなら逃げたい。でも逃げれば怪しまれ、これからの生活が面倒になる。
──″ギルド最高権力″を駆使して、俺を探し出すだろうな。
……面倒だ、それだけは。
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