……第1章……

4/7
前へ
/10ページ
次へ
「……もしかして、どこか怪我したか?」  直ぐに返答しなかった所為か、青年は眉根を寄せて怪訝な表情で問う。  俺は慌てて、といった風を取り繕い、小さく笑みを浮かべた。 「あ、いえ、大丈夫です。助けていただきありがとうございました」  わざとらしく安堵の声色を放ちつつ、コートに付いた砂を手で払う。  俺の言葉を聞いて安心したのか、彼も表情を柔らかくした。 「そうか、なら良かった」 「本当にありがとうございました。さっきの出来事で辺りの怪物も皆逃げていきましたし……。礼が出来なくてすみません。じゃ、失礼します」  ……コイツと面倒な関わりを持つ前に、即刻立ち去る。  だから当たり障りの無いよう、視認される前に特徴の無い平凡な顔に見えるよう幻術をかけ、普通に応対した訳だ。  決して印象に残らないように。彼からすれば″助けた人間がいた″程度になるように。  元々の【邪神】の能力で、世界に乱入した瞬間には大体の情報を得られている為、コイツの正体が何なのか、そして近くに小さな村があることを知っている俺は、踵を返しその方向に歩き出そうとしたが、呼び止める声がその邪魔をした。 「あ、おい!」  あ?……あーヤベ、表情が顔に出る。 「……何でしょうか」  足を止め、顔だけを振り向かせる。  出来ることなら逃げたい。でも逃げれば怪しまれ、これからの生活が面倒になる。  ──″ギルド最高権力″を駆使して、俺を探し出すだろうな。  ……面倒だ、それだけは。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1438人が本棚に入れています
本棚に追加