……第1章……

5/7
前へ
/10ページ
次へ
 内心だけで溜め息を漏らすと、視線の先にいる青年の言葉を素直に待つ。 「あー、良かったら俺が《瞬転》で村まで送ってやるよ」  彼は頬をポリポリと掻き、顔は反らしつつも目だけは俺に向けて提案した。  咄嗟の場合は除き、意外と人に優しくすることが苦手なのかもしれない、が。  ……今は、悪いが余計なお世話だな。  《瞬転》というのは、俺が最初にいた世界でいえば《転移》みたいなものだが、中々高等魔法らしい。  他の世界では大体(転移)だったから、流れは同じでも《瞬転》とは一瞬だが言いにくいのは余談。  取り敢えず少し頭の中で逡巡したが、結局俺も使えるということにする。 「大丈夫です。僕も一応(瞬転)は使えますから。お気遣い感謝です」  だが、俺が答えた時に青年は怪訝な表情を浮かべる。 「凄いな、その歳で。……でも今歩いて帰ろうとしてなかったか?」 「ええ。あまり魔法は使いたくないんです。歩いて帰れる距離なのに使うと身体が鈍る気がするので。まぁ、いざ襲われれば《瞬転》使いますけどね。……因みに、貴方も僕と見たところ同じ位の歳でしょう?貴方も大分凄いと思いますよ」  予想済みの質問には、適当に理由をでっち上げる。  微笑みながら丁寧に話す俺を見れば、前世で関わった奴は全員目と耳を疑うことだろう……。  つか、そろそろ離れさせろ。 「……そうか。気を付けろよ」  ハァ、やっとか。 「と、言いたい所なんだが、今から俺もこの近くの村に用があるんだよ。俺も一緒に行ってもいいか?」  …………。  ……運無いな、俺。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1438人が本棚に入れています
本棚に追加