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プロローグ
「ああ、ようやく片づいてきたね。一時はどうなるかと思ったよ」
イグノトルはつい、養育することになったばかりの白髪のティオに医務室と、その奥にある私室の片づけを手伝ってもらっていた。
「そうだね、もう暗くなってきちゃった」
「ごめん」
イグノトルはすぐに明かりを灯した。
至上神の手により大人の姿でうみだされ、先天的に天使の力を必要とする一角獣は、暗闇を怖れることを思い出した。
「ありがとう」
にっこりとほほえむ。
「いや、もともとは私が悪いんだから」
このティオは養育者から暴力を受けて逃げ出し、王宮医師であり天使でもあるイグノトルに出会った。
しかし、はぐれティオを保護したと国へ連絡すれば連れ戻される危険があったため、イグノトルは国へ知らせずに保護していた。
それが発覚し、ティオの不法所持の疑いで部屋を捜索されたが、どうにか疑惑は晴れ、押収された私物等々もすぐに返却されたが、もともと狭い部屋に詰め込んでいたため、それらは医務室にまでごちゃごちゃと置かれていた。
このままでは医務室が開けない、と嘆いていると、ティオのほうから手伝うよ、と言ってくれた。
「ううん、国王さまもあなたを手伝うようにっておっしゃったじゃないか」
「こういう意味じゃないと思うけどね」
国王からはティオの養育と、はぐれティオをひとりでも多く救うことを依頼された。
ティオをいとしく思う心を見透かされたようで気分のいいものではなかったが、よく考えれば国王の夫も元ははぐれティオだった。つまりは同類。
体よく面倒を押しつけられても文句は言えない。
「でもぼく、あなたのお役にたててうれしいよ」
「君をこき使うようじゃ、養育者としてはどうなのかなあ」
「ぼく、あなたがすき」
「あー、それを言われて喜んでるようじゃ、また、ティオを預かる天使として……どうなんだろうね」
「ひとがいるときは言わないよ」
「いない時に言われると、変な気分になりそうなんだけど」
「え……っ」
ふわり、と甘い香りで満ちる。
ティオがあわてて自分の後頭部に手をあてた。
そこには初代ティオが発情期になると現れる赤斑がある。
そこから香るものは、意識して止められるものではないらしい。
「養育中はなるべく言わないでくれる?」
「ご、ごめんなさい……」
「どうせ養育期間はたったの半年だから、しばらくの辛抱だよ」
「……はい」
「あ、あとは私室の本を巻数の順番で揃えてくれるだけでいいよ。ばらばらだと何となく落ち着かないんだよ。私は医務室の掃除だけしておくから、終わったら休もうね」
「はあい」
いることがわかるように、イグノトルは医務室と私室を隔てる扉を開けたままにした。
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