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それに気づいたのか、ティオがにっこり笑う。
こうしておかないと、このティオには喪失の病がある。
恋を失うと死ぬ不治の病で、胸に苦痛を訴え、長引くと呼吸がとまり、死に至る。
策を講じた国王に引き離されて発病した。
これでティオをあなたの傍に置けると国王は言ったが、あんな乱暴な方法でなくてもよかったはずだ。
ティオの想いが本物ならいつどこで発病してもおかしくないのはわかる。
だが、死の病を背負わせたくなかった。
大事に包んで守ってやれば、病気になどならずにすむのに。
よりにもよって、以前亡くしたティオと同じ病気にさせるなんて。
ふと、私室のほうを見ると、ティオが一冊の本をひらいていた。
見覚えのある装丁。
イグノトルは勢いティオに近づき、本を取り上げた。
「あっ……」
これは以前、妻が初代ティオを預かる心得のために買ってきた本だった。
見ると、ティオを出迎えよう、の項には初めて出会う天使におびえないよう、服装は白っぽく奇抜でないものを、と書かれてあり、余白に丸印がされていた。
「君が見るものじゃない。こんなところに紛れてたなんて知らなかったよ。……ごめん」
「それ……、あなたが、亡くしたティオのために準備をしていた……の?」
「妻の愛読書だった」
「そ、……そっか。あなたの奥さん、あなたの気持ち、すごくよく知ってて、色々してくれてたんだね」
「いや、私は初代ティオを預かるつもりはなかった。当時は外科医をしてて、緊急だと寝てても呼び出されるから病院に泊まりこむこともあってね、私がいない間、寂しいから妻が預かりたいって言い出したんだよ。どうせ屋敷にいても暇だろうし、初代ティオを育てるのは天使にとって名誉なことだから、そのくらいは協力しろ、って思ってた」
「今と、ぜんぜんちがう」
「無関心だったね、ほとんど妻が世話してた」
「どして、結婚したの」
「年齢。別に、したかったわけじゃない。お互い適齢期で家柄がつりあって、義務みたいなものだった」
「今は……どうしてるの」
「再婚したらしいよ。子供が……ふたりだったかな、いると思う。自分が幸せだからか、あなたは再婚しないの、とか言われたよ、ほっとけって言うのに」
「仲……いいんだ」
「何もかも、私のせいだからね。幸せでいてくれないと困るよ」
「前のティオが、あなたを変えたの」
「ティオの死と、強いて言えば、孤独かな」
「ぼく……」
「初代ティオは大人の姿でうみだされるんだから、いくら法律上では大人でも、君の心はまだ子供だよ。私のことより、本当にこんな狭い部屋でいいんだね?」
「うん。あなたのそばがいい」
「いい子だね」
赤斑のある首筋に手をかけて、引きよせた。
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