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「じゃないかなー、と思ってたんだ。いやに親切だからさ。当たり?」
「……すみません」
「やだなあ、そこは格好だけでも否定してくれないと」
「ね、イグノトルさま、おるすばん……って」
「そうそう、このティオの手続きに行ってきたいんだよ。悪いね、私用でこき使って」
「いえ……」
「病院には戻らないよ、私は。でも、君のせいじゃない。ごめんね、迷惑かけて」
「そんな……ことは」
「ティオ、出かけるよ。用意して」
「あ、はいっ」
勢いで返事をしたものの、ティオはどうしていいかわからない。
「ああ、私室に君の衣服あるから着替えておいで。待っててあげるから」
「はあいっ」
たっ、と私室に駆け込んだ。
「イグノトル医師……」
「なに」
「患者の評判と現物に差があるんですけど」
「……気のせいだよ」
王宮を出てふたりで街中を歩いていると、何を話すわけでもないのにティオは嬉しい気持ちでいっぱいになった。
「ね、いっしょにお出かけ、してるんだよね」
「ん?」
嬉しさのあまりじっとしていられず、たたっと駆けだし、またイグノトルのそばへ戻る。
「こら、あんまりはしゃぐと転ぶよ。お留守番させとくべきだったかな」
「あ、ごめんなさい。もうおとなしくしてます」
「よし、いい子だね」
わしわしと頭をなでる。
「そ、それするの、あんまりよくないよ」
周囲の視線を気にして、ティオが辺りを見まわす。
意外にも、誰も気にせず通りすぎていく。
「ティオはそのくらいの愛情で包まれてるのが普通なんだよ」
「ぼく……」
煉瓦の外壁が美しい建物の前に、イグノトルが立ち止まった。
「さあ、着いたよ。このお店だ」
「おみせ?」
「薬屋さんだよ。ちょっと寄り道」
イグノトルは慣れた動作で扉を開けた。
「いらっしゃい。おや、かわいいティオだね」
顔見知りらしく、カウンターの中にいた年配の女性店員はすぐにイグノトルが連れているティオに気づいて声をかけてくれた。
「ええ。新しく養育することになりまして、まだ名前がないので紹介のしようもないんですが」
「それは仕方のないことだよ。どうしたの、おつかいの下見かい?」
「あ、えっと」
ちらりとイグノトルの顔をうかがう。どう言えばいいのかわからない。
「例の新薬、出てるそうですが」
「はい。ありますよ」
また成分がどうとか、副作用がどうとか難しい話をはじめた。
ティオは退屈になり、店内にある商品をくるくると眺めた。
「触っちゃだめだよ」
「はあい」
「いい子だねえ。何か気に入ったのあるかい?」
「おみせに来たの初めてだから。すごいね、ものがいっぱい並んでるー」
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