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「……前と場所変わってるな……。あ、ちょっとすいません」
職員を見つけて窓口を尋ね、イグノトルが書類を提出した。
あとでお名前をお呼びしますのでしばらくお待ちください、と言われ、長椅子にそろって腰かける。
「手続きって、紙を渡すだけなんだね」
「いや、本当は審査がいるけど国王の署名があるから必要ないだけ。君の病名も略で通ってる。ありえないね」
「あ……」
「つまり、その信頼に応えないといけないってことだよ。恩を売られた感もあるけどねえ」
「悪く思いすぎだよ」
「どうせね、明るいほうの性格じゃないよ、私は。病院に勤務してた頃、あの医師はいやだ、かえてくれって言われたことあるし」
「そんな……」
イグノトルさま、と名前が呼ばれた。
一緒に立ち上がって窓口に行くと、こちらが証明書と、はぐれティオの養育に関する小冊子をお渡ししています、とていねいに差し出された。
「ありがとう。ほら、見て」
すぐに証明書を渡してくれた。
イグノトルの名前と自分の誕生日が書かれている。
「これで正式に君は私のティオだよ」
「ぼくの……主?」
「そうだよ。養育期間が終わっても、主であることは変わらない。手続きをしない限り、ずーっとね」
「あ……」
じわり、とイグノトルの名前がぼやける。
幻だったのかあ、と思っていると、こら、可愛い子が人前で泣かないの、と指で涙を拭われた。
ふざけるな! という突然の怒声が響く。
こわいな、と思いながらティオがそちらを見ると、別の窓口で男が叫んでいた。
「うわ、困ったな」
「知り合い……なの?」
「噂の上司だよ」
「え?」
「一応ごあいさつしとく?」
「ぼ、ぼくにきかないで。……わからないよ」
「釘を刺すにも状況が悪そうだねー」
「い、イグノトルさま……」
明るくない性格と言ったはずなのに、ずいぶん楽観的な口調だった。
「こんにちは、どうされました?」
患者にかけるような声で、イグノトルが上司と呼んだ男に話しかけると、男は信じられないと言いたげな顔で振り向いた。
「イグノトルじゃないか、ちょうどいいところに」
「いいんですかねえ」
皮肉を含んだ声にも、相手は特に態度を変えない。
ふと、そばにティオがいることに気づいたらしく、しばらく視線をとめて、またイグノトルに向き合う。
「お前……、ティオがいるのか」
「ええ、ちょっとした事情がありまして」
ティオは何となく怖くて半歩さがったが、その上司はイグノトルしか見ていない。
よくわからなくて、小首をかしげた。
「そうか。こっちは身元不明のはぐれティオを保護した。眠れなかったから初代ティオだ。死んだらお前のせいだぞ」
「何ですかそれ」
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