1 狭間

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「……前と場所変わってるな……。あ、ちょっとすいません」  職員を見つけて窓口を尋ね、イグノトルが書類を提出した。  あとでお名前をお呼びしますのでしばらくお待ちください、と言われ、長椅子にそろって腰かける。 「手続きって、紙を渡すだけなんだね」 「いや、本当は審査がいるけど国王の署名があるから必要ないだけ。君の病名も略で通ってる。ありえないね」 「あ……」 「つまり、その信頼に応えないといけないってことだよ。恩を売られた感もあるけどねえ」 「悪く思いすぎだよ」 「どうせね、明るいほうの性格じゃないよ、私は。病院に勤務してた頃、あの医師はいやだ、かえてくれって言われたことあるし」 「そんな……」  イグノトルさま、と名前が呼ばれた。  一緒に立ち上がって窓口に行くと、こちらが証明書と、はぐれティオの養育に関する小冊子をお渡ししています、とていねいに差し出された。 「ありがとう。ほら、見て」  すぐに証明書を渡してくれた。  イグノトルの名前と自分の誕生日が書かれている。 「これで正式に君は私のティオだよ」 「ぼくの……主?」 「そうだよ。養育期間が終わっても、主であることは変わらない。手続きをしない限り、ずーっとね」 「あ……」  じわり、とイグノトルの名前がぼやける。  幻だったのかあ、と思っていると、こら、可愛い子が人前で泣かないの、と指で涙を拭われた。  ふざけるな! という突然の怒声が響く。  こわいな、と思いながらティオがそちらを見ると、別の窓口で男が叫んでいた。 「うわ、困ったな」 「知り合い……なの?」 「噂の上司だよ」 「え?」 「一応ごあいさつしとく?」 「ぼ、ぼくにきかないで。……わからないよ」 「釘を刺すにも状況が悪そうだねー」 「い、イグノトルさま……」  明るくない性格と言ったはずなのに、ずいぶん楽観的な口調だった。 「こんにちは、どうされました?」  患者にかけるような声で、イグノトルが上司と呼んだ男に話しかけると、男は信じられないと言いたげな顔で振り向いた。 「イグノトルじゃないか、ちょうどいいところに」 「いいんですかねえ」  皮肉を含んだ声にも、相手は特に態度を変えない。  ふと、そばにティオがいることに気づいたらしく、しばらく視線をとめて、またイグノトルに向き合う。 「お前……、ティオがいるのか」 「ええ、ちょっとした事情がありまして」  ティオは何となく怖くて半歩さがったが、その上司はイグノトルしか見ていない。  よくわからなくて、小首をかしげた。 「そうか。こっちは身元不明のはぐれティオを保護した。眠れなかったから初代ティオだ。死んだらお前のせいだぞ」 「何ですかそれ」
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