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朗らかで優しかった妻が笑わなくなったことを、男は憂いていた。 この城で長く暮らしてきたが、ここまでの厳しい冬は彼にとっても初めてだ。 住み慣れた郷から離されたばかりの妻にとっては尚更、愁い事も多いことであろう。 彼女は眠りに就いた後に、よく小さな声で両親を呼ぶ。 寂しいのであろうか、それとも、心配しているのだろうか。 そんな時男は、隣にいながら妻の心を慰めてやれない自分を歯痒く思い、ただ眉を寄せて天井をじっと見つめた。 食糧庫の管理を任せているのは使用人のうち大柄な女のほうであったが、彼女が少しずつ痩せてきたことにも彼は気付いていた。 出される食事の量は変わらない。 終わりの見えない冬を危惧して彼女が自分の分を切り詰めているのは明らかだった。 領地の冬支度は万全を期したつもりだった。 元より財を投げ打って民のことを考えてきた領主であるから、余分に手に入った薪も食糧もほとんどを村に置いてきたのだ。 あの時、城の備蓄を例年より増やすということは考えていなかった。 男は思った、下の様子を見に行こうと。 妻は村の話を聞きたがるだろう。 このまま閉ざされた城が冬に食い殺される前に、食糧も手に入れたい。 村の暮らしにも余裕がなければ街まで出て、城と共に村にも補充をせねばならない。
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