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「まあ、この雪の中を下りるのですか?」 リリーはまず危険を伴う下山を心配して顔を曇らせた。 「案ずることはない。この山で生まれ育ったのだ」 と、夫は穏やかに微笑んで髪を剥くように撫でる。 「お父様とお母様にお会いしてくるよ。きっとお元気でいるだろうが、城での君の様子でも話してこよう。きっとお喜びになる」 両親が話題に出ると、リリーの表情は自然とほぐれた。 「お気遣いいただき……」 夫に感謝の意を伝えながら、森のような深い緑の瞳を潤ませる。 「どうか両親によろしくお伝えください。リリーは元気ですと」 「それにはまず」 と、夫はリリーの頬に手を伸ばし、包むように優しく触れる。 「元気な顔を見せてくれないか」 リリーははっと息を飲んだ。 心配をかけているなどと微塵も思っていなかったことを恥じ、申し訳なく思うと共に夫の愛情に素直に喜んだ。 伝えるべき言葉が上手く出てこなかったが、その思いは表情に現れたのだろう。 男は満足そうに笑って強く頷いた。 「彼女がドレスを着られなくなる前に、栄養のあるものを手に入れなければね」 痩せてサイズの合わなくなったぶかぶかの服に身を包んだ使用人は恥ずかしそうに頬を染め、リリーともうひとりの使用人は主人のジョークに声を立てて笑う。 城が雪に埋もれてから初めての、心から寛いだひと時だった。
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