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リリーの瞳の色と同じ、深いフォレストグリーンが山に戻りつつあった。
それは、恐ろしく長かった冬の終わりの訪れだった。
「奥様、本当におひとりで……?」
「大丈夫よ」
城を出る際、心配そうな顔で城門まで着いてきた使用人たちに対して、リリーは穏やかな笑みを浮かべた。
風に乗って香りが運ばれてくる。
確かに花は、どこかに咲いている。
――春になったら、今度は花の咲く場所へ私から行きましょう――
長かった冬の、あの厳しかった時期の入口で交わした約束を、リリーは果たそうとしていた。
花の咲く場所へ、自らの足で。
険しい山の上で、雪に覆われて長いこと城に閉じこもっていた。
城外の土を踏むのは実に、彼女がここへ連れてこられたあの日以来である。
まだ雪解けもまばらで足元はシャーベットと氷混じりであったが、確かに陽射しはあった。
山に、太陽が戻ってきたのだ。
あの刺すような攻撃的な冷たさを孕んだ空気はどこかへ消えてしまった。
何事もなかったかのように。
頬を撫で髪を揺らす風には温もりさえ感じる。
そう、まるで――
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