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「リリー。あのお山の上に、とんがりお屋根が見える?」
少女は絹のような金の髪を揺らしながら母親が指差す先を見上げ、深く澄んだ緑色の瞳を輝かせた。
「ある! あるわ、母さま。とっても細くて長いおうちね。きっとすごく痩せっぽちで、すごく背の高い人が住んでいるんだわ!」
母親は微笑みを浮かべたまま首を横に振る。
「見えているのはね、とーっても広くて大きなお城の、一番背が高いところなのよ」
少女は何度か瞬きを繰り返してから、首を傾げた。
煙突のようなひょろ長い建物が、広くて大きなお城にはとても見えなかったのだ。
ころころと表情を変えながらしばらく考え込んだ後、彼女は言った。
「じゃあ、すごく太っちょで背も高い人が住んでいるの?」
母親は口元を押さえながら、ふふ、と楽しそうに身体を震わせる。
それから、内緒話をする時のように声を潜めてこう言った。
「あそこにはね、王子様が住んでいるの」
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