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リリーの家は、湖畔の小さな村の中にあった。
取れ高も僅かな耕作と牧畜で、貧しいながらも協力し合う穏やかな暮らしを送ってきた集落である。
その中でリリーは、良く働く、心の優しい女に育っていった。
家の裏手が湖で、正面には牧草地が広がり、真ん中にポツンと集落唯一の教会がある。
そのまま視線を奥に向けると山へ続き、見上げると、山の木々の頭から尖塔がひとつ突き出していた。
幼い頃に母に教えられた、王子様の住む城だ。
先代の領主は随分厳しい税を課したが、今の若い領主様はとてもお優しい――と、まるでイエスに祈りを捧げる時のように、両親はいつもその人のことを話していた。
円筒型の塔の尖った屋根から少しだけ下がった位置に、バルコニーがぐるりと一周している。
その下は木々に邪魔されて見れないが、それが城のごく一部分なのだと、18歳を迎えたリリーはよく理解していた。
お城の王子様とあのバルコニーからの眺めに、彼女はいつの頃からか憧れを抱くようになっていたのだ。
税の徴収を兼ねて領地の見回りにやって来た領主がリリーを見初めたのはその年、色付いた森の葉が散り始めた頃だった。
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