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先代である彼の亡き父は、民のためには一切動かないばかりか、冬の間に城内の備蓄が減れば増税を課すような男だったらしい。 リリーは夫が実の父を忌むように話すのがあまり好きではなかったが、それでも彼の領主としての在り方は誇りに思っていた。 「お城は、随分早く雪が降るのですね」 仕事の話から先代の話に繋がる前に、さりげなく話題を変える。 「村よりは、そうだな。だが、今年はいつもよりかなり早い」 何気ない天気の話を選んだつもりだったが、思わぬ言葉にリリーは少しばかり動揺した。 「まあ。では、村でもそろそろ?」 湖畔の家に残してきた父と母のことが急に心配になって、顔を曇らせる。 気付いた男は、すぐに言葉を続けた。 「大丈夫だ。なんのために駆け回っていたと思ってるんだ」 夫の自信に溢れた言葉と笑顔は、不安に駆られて波うちかけた彼女の心を落ち着かせていく。 雲間から差す光に結晶が輝いていた。 光の粒が降り注ぐような光景に緑色の目を細めて、リリーは小さく綺麗と呟く。 領主はその横顔を視界にとめると愛おしそうに顔を緩めて、そっとリリーの髪に触れた。 雪花が光る髪はベールを纏ったようで、彼の脳裏には、記憶に新しい花嫁姿が淡く浮かんでいた。
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