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◇
ぐるりと内臓が裏返る感触。
いや寝返ったのは「私」か。
意識が灰色の空を見上げている。
今視界の中心へと向かっているのは雨ではなく真っ黒い木々だ。
意識が見ているのだと思っていた景色は気が付くと死体の眼が見ていた。
眼球に落ちてくる雨粒が視界を滲ませるのが不快で、眼を瞑り手の甲で拭ったとき、そのことに気付いた。
目の前に翳した手をまじまじと見つめる。
私は動いていた。
生き返ったのか。
そもそも死んでいなかったのか。
いや違う。
私は生き返ってなどいない。
私は死んでいる。
完全に。
一部の隙もなく。
身体がひどく静かだった。
拍動
血流
呼吸
不随意筋の動き
普段は意識することもないそれらの活動がなければ、身体はこんなにも静かなのだ。
そして冷たい。
ただ温度が低いというだけではない。
熱の動きがない。
全身が均等に冷えている。
それは水や氷の冷たさではなく、生肉のブロックのような冷たさ。
生肉と思いついて、私はふふと笑いを漏らす。
ような、ではない。
死体である私は生肉そのものなのだ。
再び手を地面に投げ出す。
手の動きも、呼気を伴わない笑いも、それが生体活動によって成し得ているわけではないことが感覚として分かる。
これは所謂、生ける屍やゾンビと呼ばれる状態なのではないだろうか。
私は、私を縛り付け死ぬことを許さないナニカの働きによって、死して尚動くことができるようだ。
だが全てが生きていた時と同じとはいかないらしい。
自分の中からとても重要なものが消えていることに私は気付いていた。
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