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「ママぁ?どうしたの?」
「ん?なんでもないよ」
繋いでいた小さな手に無意識に力をこめていたらしく、私を見上げてくるつぶらな瞳に困ったように微笑む私が映っていた。
「わたしが押してもいーい?」
「いいよ、じゃあ持ち上げるからね。いくよ、…せーの」
ピンポーン。
明るい電子音が家の中に響いた。
住んでいたときはチャイムなんてめったに使わなかったから、毎回家のインターホンを押すたびに新鮮な気持ちになる。
家の中から「はーい」という明朗な声が聞こえてきてすぐに、ガチャリとドアが開いた。
いくらこの時間に来るって事前に伝えてるからって、誰かも確認しないでいきなり開けちゃダメでしょ、と脇の下に手を入れて持ち上げていた意外と思い小さな体を地面に下ろした。
「おじーちゃんっ!おたんじょーびおめでとー!!」
「ありがとー!!」
両手を目一杯広げてお父さんの足にしがみつく娘と、それを嬉しそうにしているお父さんを微笑ましく眺めた。
「プレゼント持ってきたんだよ!」
「それは楽しみだなぁ。さぁ、上がんなさい」
扉を大きく開いて中に入るように促すお父さんの顔を見て、あの日の朝のお父さんの笑顔が重なった。
―――私は
素直になれなくなった自分の代わりに、
いつもは来客の応対なんてお母さんに任せているお父さんを
こうやって引っ張り出して
罪滅ぼしのように喜ばせることしかできないんだろう。
玄関に入り、お邪魔しまーす、と奥にいるお母さんにも聞こえる声で言いながら小さな体から小さな靴を脱がせることに専念した。
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