ハーネスの愛神~めがみ~

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~蒼士の想い~ 聞き慣れたエンジン音。 タイヤとオイルの匂い。 何度もテスト走行してきたチームカラーである紫色のマシン。 いつもと変わらないレース前の心地良い緊張感。 「蒼士(あおと)どこか気になるのか?」 じっとマシンを確かめる様に見つめていた俺に、メカニックのケビンが不思議そうに声をかけてきた。 「いや、大丈夫」 「ならいいんだけど、昨日から少し様子が変だよ? 緊張してるのかい?」 「ちょっとな」 マシンに何か違和感を感じれば遠慮なくメカニックに言う。 それは俺達レーサーにとっては大事な事だ。 でも本当に今ケビンに言っておかなければならない違和感は何もなかった。 「前回のレースからハーネスが変わっただけで他は変わってないし、特にそれも問題なんだろ?」 「あぁ、前のよりもいいよ。なんだかしっくりする」 「そ、レーサーにとっては大事な物だからね」 「あぁ」 いつの間にか側にやってきたのはエンジニアのジョシュアだった。 ジョシュアの言うとおり今回の日本大会から変更されたフルハーネス。 今までも株式会社AKAMAから提供してもらっていたが、今回からAKAMAは正式にうちのチームのサポータースポンサーとして参加が決まった。 そして今回マシンに組み込まれているハーネスはチームカラーと同じ紫色のベルト。 そしてチームイメージの翼と同じ白で書かれた『AKAMA』の文字。 別に何かあるわけではないのに、何故だろう? 無性にベルトの付け心地の良さに違和感をかんじていた。 「OK、問題ないならいいんだ」 「ありがとう、もう少ししたら食事に行く」 「待ってるよ。ジョシュア、蒼士をよろしく」 去っていくケビンの背中から、また俺は元のマシンへと視線を戻した。
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