6人が本棚に入れています
本棚に追加
男は何かに気付いたように父の遺体に向かった。
「まぁ兄の遺言よりも先に、埋没してやらねぇとな」
・・・確かに、このまま兄さん達を置いておくのは得策ではない。
「警察に電話して兄さんたちを運ぶ。それでいいか」
「・・・ああ、そうかここには警察があったか。構わん。俺は何処かに隠れるから」
そう吐き捨てて部屋を出て行った。
頭のスイッチを入れ換えるように電話に手を掛ける。
言わずと知れた110番だ。
2コールで電話に出た。あちらは女性のようだ。
ここからが見せ所か。
「家族が・・・死んでるんです」
『・・・住所をお願いします。巡回中の警察官をそちらに向かわせますので・・・』
機械のように単調な会話だ。慣れているのだろうか。
さて、次は目薬の準備。
住所を告げて数分で警察官が現場に到着、救急車も呼んでもらえたようで死体が一人ずつ運ばれていく。
父さん、母さん、そして兄さん。
今までありがとう。そして、さようなら。
「・・・くっ」
ただの抜け殻だと言うのに、自分の手が届かない場所へ行ってしまうのはとても悲しい事だと思い、唇を噛む。
どうしてだろうか、復讐と言う言葉がたった今脳裏に浮かんで来た。
それなのに、悔しさとか、復讐心とか、そういう類の感情は全くと言っていいほどに浮かばない。
一人残された俺はどうなるのだろうか。ただそれだけだ。今後俺がこのままの生活を送ることが出来るのだろうかと、そう思ってしまう。
だから、その男の言葉はとても魅力的だった。
「転生してみないか?」
最初のコメントを投稿しよう!