7人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ええ。ひとつだけ。」
「何で持ってる。」
「今回、九州弾圧の筆頭を勤めた毛利隆元が、自分の家では持ちきれないからと…諸大名に振る舞っていると聞きました。」
「断らなかったのか、誰も。」
「其の武具には【力】がある。時に所持者の意志を支配、或いは増長する事がある様なのです。下手に残して、価値の解らぬ浪人の手に渡るよりは…と云うのが、我々の判断でした。」
「何故、そんな物を捨てずに持っている。」
秀吉が訊ねる。
「…捨てられないのですよ。」
「捨てられない?」
「でなければ、九州摩天楼が焼き払われた際に、共に焼き捨てた筈です。」
「……。」
再び、秀吉は押し黙る。
利休が向かいで大きな溜め息を吐いた。
「馬鹿共が…。そんで手前ぇは、何持ってる。高山。」
「はい。此の聖書です。」
高山は傍らに忍ばせていた書物を、そっと膝の上に置いた。
予め其の様に製本されたのか、件の力が働いているのか、聖書は深い闇の様な色に覆われている。
【黒】だ。
一等にこの色を好む男は、直ぐ様に言い切った。
「…紛い物(もん)だな、此の黒は。」
最初のコメントを投稿しよう!