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* * * *
「うっわーー、すっげー!
船の中に豪邸があるーー!」
「きゃー、このベッドすっごくふかふかだー!」
「お姫様みたいな鏡があるよ!
テーブルもイスも床もぴっかぴかだよ!」
院の子供達はキラキラ目を輝かせながら、あちこち見回して感嘆の声を上げる。
「ギル、いいのか?」
「ああ、この船はおれの船だからな。
ぶらり目的もなく彷徨うだけの旅に使うものが思わぬ役に立った」
ギルバードが乗ってきた中型のキャラヴェル船は、ラズベリアの洞穴から港の一角へと移動されていた。
船室には賑やかな子供達の声が響いてくる。
船首に近い甲板にティルアとギルバードは並んで立っていた。
「レンの話を聞きたい。
なぜレンは孤児院に入れられたんだ?」
潮風がびゅるりと頬を撫で、ティルアとギルバードの髪を乱れさせる。
鴎が飛び交う、光の波間を眺めながら、ティルアはしばらく黙った。
「レンは……親に捨てられたわけじゃない。
経済的な理由からやむを得ずに預けられていたわけでもない。
言えることは、レンは自分の姓を捨てたがっている。
そこから先は、レンから直接聞くべき。
私からはこれ以上は話せない」
「……何かがあったことが分かればそれでいい。
孤児院……セルエリアには孤児院は五ヶ所ある。
セルエリアは大国だが、貧富の差が激しい国だ」
ティルアは気付く。
ギルバードが何か見えないものを掴もうとしていることに。
「ギルバードはアスティスと同じセルエリアの王子だったんだな。
……感謝させていただく。
初めて見たよ、あいつらがあんなにキラキラ瞳を輝かせているのをよ」
船室からレンが姿を現した。
つんと立った赤い燃えるような髪は、まるで彼の運命そのものの色。
「誕生日とは……特別な日なのだろう?」
ギルバードがそう言うと、レンは黙り、ティルアは苦笑した。
「一般的には。
私は産まれたときから罪人だったからそう思えないだけで」
「!?」
自分から目を離せずにいるギルバードの視線を感じながらティルアは言った。
「生まれるタイミングを間違えただけで母親が悪魔になったのだとしたら、産まれた瞬間から役立たずの私はどうすればいいのかな。
責任を取って自害されたお母様にどうお詫びすればいいのか――――」
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