第7夜 愛の口付けを教えて

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 * * * *  謁見の間に似つかわしくない音が鳴り響いた。  跪くティルアの真正面に立つ第一婦人が手を振り下ろしていた。 「ティルア、お前は何という醜態を!  アスティス様を巻き込むなんて……!!  満潮に巻き込まれでもされていたら今頃、――――!」  醜く歪められた表情にはティルアへの侮蔑が込められていた。  婦人の後方に立つ三人の娘はそれをせせら笑い、奥のイアン王は婦人の凶行を止めにも入らない。  ティルアは膨らむ左頬を庇うこともせず、頭を垂れたまま婦人とイアン王に視線を置いたまま。 「“ 花種ごとき ”にセルエリアの至宝が失われるところでしたのよ!  しかも肝心の強盗を取り逃がしたというではありませんか!  囚われていた第三王子ギルバード様がご無事だったからよかったものの――」 「義母上!  ……花種は国益とラズベリア市民の――」 「この期に及んでこのわたくしに口答えするつもり!?  花種などまた民に新たな品種を作らせればいいのです!  国庫が不足するというのであれば、税を重くすれば問題ないでしょう?」 「――――っ!」  ティルアの後方には、ギルバードとアスティスが立っていた。  取り繕ってはいるものの、アスティスは醒めた眼でそのやり取りを眺め、ギルバードは腕組みながら横目でアスティスを見た。 「あの王子、なぜおれのことを言わなかったんだ?」 「……さしずめ、セルエリアに気を遣ったのだろう。  そして例えそうであったとしても……あの心ない者達は何かにつけてティルアを悪者にしたがるんだ……」 「しかし茶番だな……見ていてイライラする」 「今回の一連の逗留では同盟各国の国学を学ぶことになっているが、逆に指南や指導は父上から禁止されている。  それさえなければ、ティルアの前に立ってやれるのに……!」 「……へえ、優等生だねぇ」 「!?」  ギルバードはアスティスを鼻で笑うと、ゆっくりと前に進み出る。  イアン王も婦人も、姫らもみなギルバードから目を離せずにいる。  ティルアのすぐ横で足を止めたギルバードはイアン王を真っ直ぐに見据え―― 「イアン王、おれは此度の件でティルア王子の姿勢に感服した。  暫くの間、おれはティルア王子について国学を学ばせて貰う」  きっぱりと発した。
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