56人が本棚に入れています
本棚に追加
* * * *
謁見の間に似つかわしくない音が鳴り響いた。
跪くティルアの真正面に立つ第一婦人が手を振り下ろしていた。
「ティルア、お前は何という醜態を!
アスティス様を巻き込むなんて……!!
満潮に巻き込まれでもされていたら今頃、――――!」
醜く歪められた表情にはティルアへの侮蔑が込められていた。
婦人の後方に立つ三人の娘はそれをせせら笑い、奥のイアン王は婦人の凶行を止めにも入らない。
ティルアは膨らむ左頬を庇うこともせず、頭を垂れたまま婦人とイアン王に視線を置いたまま。
「“ 花種ごとき ”にセルエリアの至宝が失われるところでしたのよ!
しかも肝心の強盗を取り逃がしたというではありませんか!
囚われていた第三王子ギルバード様がご無事だったからよかったものの――」
「義母上!
……花種は国益とラズベリア市民の――」
「この期に及んでこのわたくしに口答えするつもり!?
花種などまた民に新たな品種を作らせればいいのです!
国庫が不足するというのであれば、税を重くすれば問題ないでしょう?」
「――――っ!」
ティルアの後方には、ギルバードとアスティスが立っていた。
取り繕ってはいるものの、アスティスは醒めた眼でそのやり取りを眺め、ギルバードは腕組みながら横目でアスティスを見た。
「あの王子、なぜおれのことを言わなかったんだ?」
「……さしずめ、セルエリアに気を遣ったのだろう。
そして例えそうであったとしても……あの心ない者達は何かにつけてティルアを悪者にしたがるんだ……」
「しかし茶番だな……見ていてイライラする」
「今回の一連の逗留では同盟各国の国学を学ぶことになっているが、逆に指南や指導は父上から禁止されている。
それさえなければ、ティルアの前に立ってやれるのに……!」
「……へえ、優等生だねぇ」
「!?」
ギルバードはアスティスを鼻で笑うと、ゆっくりと前に進み出る。
イアン王も婦人も、姫らもみなギルバードから目を離せずにいる。
ティルアのすぐ横で足を止めたギルバードはイアン王を真っ直ぐに見据え――
「イアン王、おれは此度の件でティルア王子の姿勢に感服した。
暫くの間、おれはティルア王子について国学を学ばせて貰う」
きっぱりと発した。
最初のコメントを投稿しよう!