第7夜 愛の口付けを教えて

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 * * * * 「というわけで――だ、改めてよろしく頼む、ティルア王子」  謁見の間から退出し、部屋に戻ったティルアの元に訪ねてきたギルバードは手を差し出してきた。 「まさか本当に国学を……?  ギルはアスティスを陥れるためにラズベリアに来たのではなかったのか?」 「ティルア王子、お前の熱意には参ったよ。  あの揺れる船上での熱弁に突き動かされたとでもいうべきか……おれも第三王子としてその姿勢を学ばねばと思ったんだ」  ティルアの部屋前、ドアに立つギルはふっと黒瞳を細めて笑った。  ティルアのつぶらな赤眼がキラキラと耀く。 「うわぁ、じゃあ僕の言葉がギルを更正させたってことなのか!  それは嬉しい、とても嬉しいぞ!!  僕でよかったら、何なりと力になろう!」  打算などあるはずもない、ティルアの信じきった満面の笑みにギルバードはごほっごほっと噎せた。 「だ、大丈夫か、ギル!?」 「………………もっと人を疑え」  小声でボソッと言葉を発したギルバードはようやく気を取り直し、ティルアが立つドアの奥に目を向けた。  先客がいた。  銀の巻き髪をしとやかに纏め、藍のドレスに身を包んだ女性がギルバードの目に留まった。 「来客か」 「いや、構わない。  ギルとはこれからしばらく行動を共にするんだ……また会うこともあるだろうし、紹介しておこう」  ティルアはギルバードを中へと促した。  奥に座るユリアの表情が一気に毒々しいものへと変化していくも、ティルアは全く気付かない。 「ユリア、この方がセルエリア第三王子のギルバードだ。  ――で、ギル、この方は僕の婚約者。  アンゼリカ公国のユリア姫」  ユリアから計り知れない負のエネルギーが発される。 「へぇ、セルエリアの王子様がお二人もこのような僻地にいらっしゃるだなんて……余程お暇なのかしら」 「へえ、この女がティルア王子の婚約者ねぇ……これまた随分と貧相な胸だな。  こんな貧相な身体で楽しませてやれるのか?」 「……な、何ですって!!」  人形のように整った美しいユリアの顔が途端に真っ赤に紅潮した。
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