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「無礼者!
淑女の前にそのようなっ……!
恥を知りなさい!!
わたくし達は愛し合っておりますのよ!
ティルア様はそれはそれは可愛いお方で、最中も――」
「ふん、随分と可愛い威嚇だね。
そんなに必死になるってことは、まだ何もされていないと自分から白状しているようなものだ。
こんな見え透いた嘘を信じる奴は余程の世間知らずの坊っちゃん位だろ」
「なっ、――――!」
カッとなるユリアの表情を薄目で満足そうに笑ったギルバードは余裕綽々に灰の髪を掻き上げた。
「ふん。図星、ね。
芝居は最後まで貫き通さないとつまらないじゃないか。
お前は最後の最後で本当にボロを出した――つまりはそういうことだ」
「ユ、ユリアを苛めるな、ギル!!
会話の内容はよく分からないが、僕はどんなユリアだってあ、愛して……っ!」
ユリアを庇うようにしてのギルバードの前に立ちはだかったティルアが顔を真っ赤にさせながらギルバードを睨む。
「ふん……そんな表情もするんだな」
「は?」
ギルバードはティルアからユリアへと向き直った。
「ユリア姫と言ったな、おれは女が嫌いだ。
だが、どうやらティルア王子は今までの女とは違っているようだ。
誰かに取られたくなければ鎖にでも繋いでおけ」
「えっ、…………ええっ!?」
いつの間にばれたのだろう、ティルアがにやっと笑うギルバードの顔を見る。
そのタイミングで彼は凶悪な笑みを引き連れて、ティルアの耳元で囁いた。
「なかったからな、あるはずのものが」
「………………っ!!」
船上で襲われかけた際に下に伸ばされた手の動きを思い出し、ティルアは顔を真っ赤にさせて口をパクパクと動かした。
「くっ……厄介ね、貴方。
下手をしたらあの王子よりもずっと質(たち)が悪いわ」
「お褒めの言葉をどうも。
有り難く受け取っておこうかな」
ユリアとギルバードは始終そんな火花を飛ばし合い、なんとも言えない時間が流れていった――。
テーブルいっぱいに広げられたタロットカード。
大アルカナ――最近、ユリアの占い結果はいつも、同じ結末を辿る。
――“ 死神 ”の正位置。
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