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「さて、僕は今から食堂に行く。
アスティスは食事は父上達と一緒だ。
ギルはどうするんだ?」
「無論だな。
おれはティルア王子と行動を共にすることになっている。
第一、おれはあの王族諸氏らと食事を囲むつもりはない」
「ギル……僕もたまに父上や義母上の言葉に耳を疑うときは確かにある。
だが、それだけがラズベリアの総意とは思わずにいてやってほしい」
「ふん……どこまで聖人君子なんだか」
渡りを歩きながらそんな会話を続けていく内に渡りを駆け抜ける新兵らの群れと行き違った。
どうやら本日はデラックス争いは健在のようだった。
ティルアはじっと渡りの奥へと視線を向けるギルバードの袖を引っ張った。
「ギル、申し訳ないが目玉商品は切れて――――っ!!」
続きを出そうとしたティルアの身体はギルバードの胸に押し付けられていた。
抗議の意を示そうとするティルアの背にギルバードの腕が回る。
「大人しくしていろ」
「………………??」
意味がわからずも、暫くそのままの状態で硬直するティルアは言われた通りに固まっていると、しばらくして腕は何事もなかったように解かれた。
「何だ、突然押し付けたりして。
何か僕が見てはいけないものでもあったのか?」
その問いにギルバードは唇を不遜に歪ませ、笑い出す。
「な、なんだ、どうした、ギル?」
「はは、ははは!
これは傑作だ……まさか本当にそのままだったとは――!」
不気味に笑い続けるギルバードの真意が全く掴めず、ティルアは暫く立ち尽くす。
「どうやらおれの選択は間違っていなかったらしい。
ティルア王子、アスティスの午後の公務はどうなっている?」
「……アスティスの?
ああ、アスティスはいつも午後は姉上達との茶会に回っているぞ。
逗留の目的でもあるからな、アスティスの花嫁探しは」
「!?
掠りもしない上に……くくく、これは面白い。
なんと愉快な……!」
ティルアはますます愉快に笑うギルバードが不気味で仕方がなかった。
「ギル、意味のわからないことばかり言ってないでさっさと早く行くぞ」
笑い続けるギルバードを置いて渡りを再度歩き出すティルアは気付かなかった。
ギルバードに抱き寄せられた間にすれ違ったアスティスとアザゼルの存在に――。
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