第7夜 愛の口付けを教えて

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 * * * * 「へえ、夜はお前か……アザゼル」 「ギルバード王子……!」  これでカルピナに頼むことになった食事は三食。  申し訳ないと思いつつも、カルピナは嫌な顔ひとつせずに厨房に向かっていった。  部屋にはティルアを挟んでアザゼルとギルバードが椅子に座る。  ギルバードの尊大な態度は今に始まったことではないが、アザゼルの様子がおかしい。 「国に帰られたらいかがですか、ギルバード王子。  こうも勝手に放浪されていては国王様も心配しておいででしょうし」  薄茶の髪から覗かせる橙の瞳は不機嫌を隠すそぶりも見せず、ギルバードを非難するようにして。 「それは本心で言っているのか?  父上がおれの心配などするわけがないと知っていながらよく言えたものだ」  カルピナが予めテーブルに置いていったミネラルウォーター入りのワイングラスを手にしながらギルバードは闇の瞳でアザゼルを迎え撃つ。  居心地が悪いティルアは、目線を二人の間で行ったり来たり動かしながら、ひたすら水の入ったグラスを飲み続ける。 「ふん、お前がおれを立ち退かせたい本当の理由は他にあるのだろう?  困るのは父上ではない。  うまく隠しているつもりだろうがおれからしてみればバレバレなんだよ」 「…………!!」  火花を散らす両者の間に入るティルアの目は徐々に迷惑そうなじとり眼に変わっていく。  グラスの中身はもう空だ。 「……カルピナ、早く来ないかな……」  アスティスがラズベリアに来てから楽しいことばかりだと思っていた矢先の出来事。  ふとティルアはアザゼルのグラスは殆ど飲まれておらず、並々残っていることに気付く。  問答を続けている中であれば、大して気付かれることもないだろう。  ティルアはそーっと手を伸ばし、向かいに座るアザゼルのグラスをすすすすと手繰り寄せた。  ティルアがごくっ、と一口喉を鳴らした辺りか。  二人の視線が揃ってティルアに注目していた。 「……ティルア様」  アザゼルの顔は心なしか赤くなっている。  やはり気付かれたようだったと理解し、ティルアは愛想笑いを浮かべた。 「ごめん、アザゼル。  話に加われそうもなくて手持ち無沙汰になったから貰っちゃった……え、えへ」  誤魔化そうと笑ったティルアの前で、顔を合わせた二人が揃ってはぁと溜め息を付いた。
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